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博士論文概要


太陽11年周期変動に伴う成層圏大気の応答に関する研究

(Studies on stratospheric responses to solar 11-year variation)


  11年周期の太陽変動は、成層圏のオゾン、気温変動にとって重要な役割を果たしています。論文執筆当時までの観測研究により、1980〜2000年の期間に、上部成層圏では太陽活動の11年周期と同期して、約2%のオゾン変動、及び約1Kの気温変動が観測され、下部成層圏では約4%のオゾン変動、約0.5 K の気温変動があるとされてきました。

  これらのオゾン、気温変動は重回帰解析により太陽変動との回帰係数として得られたものですが、太陽変動周期に比べてデータ長が十分でないために、これらの変動が全て太陽活動による影響を有意に表しているとは限りません。例えば、オゾンや気温の変動には太陽11年周期変動の他、火山噴火や成層圏準2年周期振動(quasi-biennial oscillation;QBO)、海表面温度(Sea Surface Temperature;SST)変動の影響が含まれうると考えられています。

  そこでYamashita et al.(2010)では、全球規模の気候計算に用いられてきた3次元数値気候モデルにオゾンなどの化学反応や輸送も含めた化学気候モデル(Chemistry Climate Model:CCM)を用いて、当時としては画期的な大規模アンサンブル実験を行うことで、太陽11年周期や火山噴火などの影響を個別に見積もり、太陽活動が成層圏のオゾン、気温に及ぼす影響プロセスを力学的、化学的に考察しました。

  まず、CCMで行った標準実験(太陽11年周期、火山噴火、QBO、SST変動を全て含む実験)の1980〜2000年の出力に対し、それまでの観測研究同様に重回帰解析を行い、太陽11年周期と同期した変動を取り出しました。CCMの結果では、オゾンでは上部成層圏5 hPa、下部成層圏80 hPaの2ヶ所に変動のピークが分離して現れており、それぞれ約2%、約14%の値を示していました。気温でもほぼ同じ2ヶ所の高度にピークが見られ、1 hPa で約0.6 K、70 hPa で約0.9 Kの値を示しました。

  次に、標準実験から太陽11年周期の影響を除去した実験を行うと、標準実験とは異なり上部成層圏におけるオゾン、気温偏差のピークが不明瞭となりました。他方、下部成層圏においては、標準実験から火山噴火の影響を除去した実験でピークが小さくなることから、火山噴火に伴う化学プロセスの影響を大きく受けていると考えられます。しかし、火山噴火の影響を除去した実験においても、太陽11年周期を含む実験では下部成層圏に弱い偏差が検出されました。その大きさはオゾンで約1%、気温で約0.2 K であり、観測結果(オゾンで約4%、気温で約0.5 K)と比較して無視できないため、観測結果の一部は太陽活動による影響で説明できると考えられます。

  さらに、太陽活動が赤道下部成層圏に及ぼす影響プロセスを他の変動の影響と分離して調べるため、太陽活動極大期の太陽定数に固定した実験と極小期に固定した実験をそれぞれ42年の期間について行い、その差を解析しました。極大期と極小期の差が太陽11年周期に伴う偏差に相当し、赤道下部成層圏においてオゾンで約1%、気温で約0.2 Kでした。

  論文執筆当時までの研究においては、太陽活動極大期と極小期で極渦の西風強度に違いが生じるために、中緯度域における惑星波の伝播特性が変わるとされてきました。しかし、波の伝播特性の変化を西風強度、風速分布の南北・鉛直方向の曲率による変化等に成分分解すると、極大期に西風の南北方向の曲率が大きくなることで波の伝播特性が変わることが明らかになりました。

  波の伝播特性が変わることで、極大期には中緯度域における伝播が抑制されており、波により駆動される成層圏循環も抑制される傾向にあります。この循環は赤道域で上昇、中高緯度域で下降しているため、循環が抑制されると赤道域のオゾン輸送も変わり赤道下部成層圏のオゾン濃度を増大させると同時に断熱加熱により気温を上昇させます。また、オゾン濃度増大による紫外線吸収の増加も無視できない程度には影響した可能性があることが分かりました。

  このように、太陽活動の変化と同期した赤道下部成層圏のオゾン、気温変動の形成プロセスを、CCMで数多くの実験を行うことにより、世界で初めて系統的に示すことに成功しました。

引用

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